しばらくすると、机の上にコトンと温かそうな湯気が漂ったお茶が置かれた。

「矢崎さん、ありがとう。」

「いえいえ、それでどんな事件だったんです?」

矢崎さんは比嘉特捜部長に話し掛けると、
彼は渋い顔してお茶をひと口すすって言った。

「凶器不明の殺人事件だ。
青山くんの匂いの特性によれば、
ハーブ系のコーヒーが鍵になると。」

「へぇ…。青山くんは今月もバリバリ
活躍してくれそうですね!」

どうも矢崎さんは、俺の活躍を知るのが楽しいらしい。"特性持ち"とゆう珍しい能力に興味津々のようなのだ。

「…変わった傷跡が、頭から離れぬよ。」

比嘉特捜部長が、ふと呟いた。
俺も気になっていた。どうも刃物とも思えないし、何か柔らかいものでえぐったような複雑な痕だった…。

そんな嫌な光景を思い出していると、
難波さんがホワイトボードの前に立ち現状を記していった。

「被害者はフリーカメラマン。
ちなみに俺は、青山くんが言ったハーブ系のコーヒーの匂いとゆうものが気になっている。」

コンコンと指の背でボードを叩き、
難波さんがそのワードだけで軽い推理を始めた。

「死亡推定時刻は、深夜2時前後。
凶器は不明だが刺殺。
だが念の為、毒も関わっているか調査中。
青山くんの特性は、念が強い程匂う事から
被害者は殺害される前にそのコーヒーを飲みながら犯人と接触していた可能性がある。」

難波さんの推理は、俺の推理とも同じようだ。

「そうですね。ちなみにハーブ系の独特な香りのコーヒーと時間帯を考慮すると、缶コーヒーや喫茶店は省かれますね。」

続けて俺がそう言うと、お茶を飲み干した比嘉特捜部長が俺達を見て言った。

「この周辺一体にハーブ系のコーヒーを置いてるコンビニ等がなければ、恐らくどちらかの自宅だろう。難波、青山くんは被害者の家宅捜査後、近場の飲食店で聞き込み調査だ!」

「「はいっ!!」」

俺と難波さんはすぐさま立ち上がり、
2人して事務所を出て行った。

「…匂いの特性って、こんな社会貢献の
仕方もあるんですね。部長。」

2人を見送った矢崎さんが、テーブルを片付けながらそう話す。

「青山くんは前向きな男だよ。
幼少期に特性が開花してから、随分と辛い思いをしてきたと娘から聞いたが、ずっと存在意義を探していたんだろうな。」

青山くんにはなかなか見せない穏やかな笑顔を浮かべる比嘉特捜部長は、そう語った。

「私を保護してくれた時を思い出しますよ。
部長はとても、優しい人ですね。」

「褒めても何も出んぞ?矢崎さん。」

そう言いつつも、少し口元は緩んでいた。