時刻は夜21時を回っていた。
自宅に帰った柊木日芽は、
椅子に掛けて机の上の紫陽花を見つめていた。

少し家を離れていたうちにまた、萎れていたので"Breath"の特性を使い紫陽花を生き返らせた。

さすがにこの時間にカーテンを開けておくのは不自然な為、俺達のアドバイスで、部屋の電灯をひとつだけつけてくれている。

ちなみに俺と難波さんは、
被害者の部屋で暗がりの中密かに美作あきらを待ち伏せていた。

俺達以外にも、周囲には本部の警察も息を潜めている。

その時、柊木日芽の部屋の灯りが消えた。
美作あきらが来た合図だ。

彼女には、抵抗せずになるべく従順であれと伝えたが、上手く行ってるようだ。

3分後に無線が入った。

[こちら、烏丸。追跡を開始します。]

比嘉特捜部長が言っていた、"尾行するあて"とは烏丸の事だったようだ。
その名前を聞いていい気はしなかったが、比嘉特捜部長が頼りにする位だ。彼の力を信じてみることにした。

「了解。GPSを起動する…」

難波さんが応答すると、俺達は暗い被害者の部屋を出た。
梅雨の夜で空も曇り、闇が深い。

その5分後に俺達は車で追跡した。

美作あきらに決して悟られてはいけない為、
距離を詰めての尾行は避けなくてはならない。

「烏丸って、一体どんな尾行してるんでしょうね」

難波さんの車の中でそうぼやくと、
知ってる限りの事を教えてくれた。

「かなり独特らしい。青山はあいつが嫌いか?」

「口と態度があれぢゃ好きにはなれませんね。」

「そうか。比嘉特捜部長が何故、烏丸を指名したか知らないようだな。」

難波さんは何故かにやついていた。
その理由を聞くと、思わぬ答えが返ってきた。

「烏丸も、特性保持者だそうだ。」

俺は少しだけ、彼が敵視してくる理由が分かった気がした。