数週間が過ぎ、颯太の体は出歩けるまでに回復した。そしていよいよ、礼文へ渡る日が来た。夏海と颯太は、フェリーに乗りこんだ。


「夏美、潮の匂いがするよ。いい気持ちだ。」


「そうね颯ちゃん、退院できて良かったね。リハビリ頑張ったし。」


夏海は、颯太の側にぴったり寄り添った。颯太は、少し歩けるようになったが、杖は離せなかった。
医者の説明では、日常生活の中で無理のない程度に体を動かして下さい。それが、いいリハビリになると言った。


フェリーがゆっくりと動き出す。


「波の音がする。風が、潮の匂いを運んでくる。夏海、船が進むのも、体で感じるよ。僕は、生きているんだね。」


「そうよ颯ちゃん、生きていれば何だって出来るわ。颯ちゃんに出来る事も、きっとある。」


そう言うと夏海は、颯太の顔を見つめた。颯ちゃん、もう私達は離れる事はない。


「夏海、僕は考えている事があるんだ。僕は民宿にくるお客さんに、ギターを弾いて歌を歌うよ。島の歌を作って、島に来る人に、礼文の良さを伝えるんだ。」

「いいね、そうしよう。私、颯ちゃんの歌声もっと聞きたい。笑。」


礼文の港が見える。


「颯ちゃん、港が見えるわ。もう、礼文よ。」


「そう礼文か、僕達の未来が此所から始まるんだ。」

~ 完 ~