ギターを弾いていた男は、颯太に近付いてきて言った。

「ギター弾くんですか?やって見ます?」


颯太の手にギターを持たせた。


「僕は…、無理ですよ。目が見えないから。」


颯太は、そう言いながらギターに触れた。
男は話を続けた。

「僕はボランティアで、こういう病院なんかを回っているんです。音楽は楽しいですよね。心が明るくなるし。」


颯太は、手探りでギターを弾いてみた。
少しずつ確かめるように。


「颯ちゃん、すごいわ。私、颯ちゃんのギター初めて聞いたわ。」


颯太は、にっこりするとゆっくり歌い出した。途中で何度も手が止まったが、最後まで歌った。

演奏が終わると、ボランティアの男は、颯太からギターを受け取り言った。


「上手いですね。もっと弾かれたらいいのに。」


颯太は、笑っていた。夏海は、笑っている颯太の顔を嬉しそうに見た。
颯太は病室に戻ってから、落ち着きを取り戻した。

「夏海、さっきはごめん。夏海はずっと僕の看病をしてくれたのに。」

「颯ちゃん、謝らないで。悪いのは私なの。はっきり言えばよかったのに…。かえって颯ちゃんを苦しめて。」


「夏海、僕の目はもう治らないけど、僕は夏海を失いたくない。こんな僕でも、夏海は愛してくれるかい。礼文へ行っても、何も出来ないかもしれない。でも、何か出来る事があるかもしれない。玉山へいても、礼文へいても、それは変わらない。だったら僕は、愛している夏海と、一緒にいたい。」

「颯ちゃん、そうよ。二人で頑張ろう。」


「うん、夏海、僕を礼文へ連れて行ってくれ。」