「颯ちゃん、私がいるわ。私が颯ちゃんのそばに、ずっといる。」


「夏海…僕はこんな体で、夏海を愛する資格はないよ。夏海が苦労するだけだ。別れて、玉山に帰ったほうが君の為さ。」

「いやよ、颯ちゃん。やっと会えたの。何処へも行かないって言ったじゃない。礼文で一緒に暮らすって、言ったじゃない。」


「僕が礼文へ行って何をすればいいの?夏海の為に、何が出来るの?ただ毎日、夏海に頼って生きているだけなんて、僕は嫌だ。」


「颯ちゃん、私を愛してないの?私は颯ちゃんを愛しているから、支えてあげたいの。」

「夏海…もうよそう。しばらく一人にして…。」


「颯ちゃん…。」

夏海はたまらなくなって、病室の外へ出た。
どうすればいい…。颯ちゃんの気持ちを…。颯ちゃんの苦しみは痛い程わかる。


夏海は、しばらくぼーっとロビーに座っていた。


すると、不意に肩を叩かれた。


「どうしました?これからプレイルームでギターの演奏があるので、聞きませんか?気分が落ち着きますよ。」


看護士はそう言うと、にっこり笑った。

ギターの演奏…。夏海は、プレイルームを覗いた。男の人が、ギターを弾いていた。夏海は、ギターの演奏に引き込まれた。
楽しそうに歌っていた。みんなも楽しそう。

夏海は病室へ戻ると、颯太に言った。


「颯ちゃん、ギター好きでしょ?早く、早く。」


夏海は颯太を車椅子に乗せると、プレイルームへ急いだ。


「夏海、どうしたの?急いでどこへ行くの?」


「いいから、颯ちゃん、ついて来て…。」


「夏海、どこへいくの?見えないから怖いよ。」


「内緒。颯ちゃんの好きなもの。笑。」


二人はプレイルームへついた。
颯太も、ギターの演奏に耳を傾けた。

「ああ、久し振りのギターの音だ。」


颯太の顔が、優しくなった。