颯太は、朝までラジオをつけっ放しだった。
午前中の飛行機で、颯太の兄が着いた。


「颯太、具合はどうだ?ご飯が食べれるようで安心した。母さんも心配していた。」


「兄さん、すまない…母さんにも、なんて言ったらいいのか…でも、僕はもう放浪はしないよ。治ったら、夏海と礼文で暮らす。一緒に民宿を手伝うんだ。」

「颯太、本気でそんな事言ってるのか?お前目が見えなくて、どうやって仕事するんだよ。兄さんと一緒に玉山へ帰るんだ。母さんだって、お前の面倒くらい見れる。」


「目が?僕の目は治らないの?そんな…夏海は見えるようになるって…」


颯太は愕然とした。夏海は何も言わなかった…治るとしか…。兄はバツの悪い顔をしていたが、颯太の肩を押さえると優しい声で言った。


「なあ颯太、母さんも心配してる。今まで自由にして来たんだ、もういいだろ帰ろう。夏美さんの事は、忘れるんだ。また良い人が現われるさ。」


颯太は、兄の手を振りほどいた。そして、立ち上がろうとベッドから出た。しかし、バランスを崩し転んでしまった。


「大丈夫か?颯太、無理するな。」

「ほっといてくれ!」


颯太は、また立ち上がろうとしたが、左足が思うように動かない。やっとベッドに手を着きながら、立っていた。


「こんな…こんな事って。兄さん、僕はどうしたらいいんだ!」


颯太は、泣いていた。兄は颯太の体を支えると、ベッドに寝かせた。

「颯太、今までの事は忘れるんだ。長い夢を見ていたと思って、玉山に帰ろう。」


「夏海…夏海は嘘をついたの? 」

颯太はベッドに横たわったまま、ぽつりと言った。

「颯太、夏海さんはきっと辛くて、本当の事を言えなかったんだろう。ずっと、意識がないお前の手を握ってくれてたんだよ。」


「夏海…。」


「夏海さんが来たら、よく話し合って決めるんだね。そんな体じゃ、足手まといになるだけだよ。」


兄は優しい声で、だが、きっぱりと言った。


颯太は、混乱していた。