次の朝颯太の兄は、夏海に颯太の事を頼んだ。


「夏海さん、私は休暇を取って戻ってきます。それまで、颯太をお願いします。」


颯太の兄はそう言って帰った。本当は夏海も、帰らなければならない。民宿は忙しくて、きっと聡は困っているだろう。

夏海は、午後の便で一度帰ると、聡に連絡した。
お昼も過ぎ、とうとう戻らなければならない。夏海は、颯太の髪をそっと撫でた。


「颯ちゃん、また戻ってくるから頑張って。」


夏海がそう声をかけると、颯太はうっすらと目を開けた。


「颯ちゃん、颯ちゃんわかる。夏海よ。」


「な、つ、み…?どこ?なつみ…暗くて…見えない…。」


「颯ちゃん…、待って先生呼んでくる。」


夏海は、慌てて医者を呼びに行った。その後、夏海は別室に呼ばれた。

「颯太君は意識が戻りましたが、事故で頭を打っています。少し言葉が出にくいようですが、これは徐々に回復するでしょう。ただ…、目のほうは残念ながら見えていません。頭を打ったのが、原因かもしれませんが…。」


「え?目が?先生見えるようになるんですか?」


「わかりません。今のところは原因がわからないので…。」


夏海は、呆然とした。颯ちゃんの目が…、見えないなんて。
夏海は、病室に戻った。
颯太は、不安そうに叫ぶ。


「誰?どう、したの…ぼく、目が、見えない。なつみ…?」


夏海は、颯太の手を握った。


「大丈夫よ。颯ちゃん、私よ夏海。ずっと颯ちゃんの側にいるから、安心して…。」


「夏海、真っ暗だよ…見えない。夏海の顔が…。」


夏海は、必死に颯太の手を握りしめた。涙が頬を伝って落ちた。

颯太は手を伸して、夏海の顔を探した。夏海は、颯太の手を、自分の頬にあてた。


「颯ちゃん、ここよ、ここにいるわ。」


「夏海…泣いて…いるの?頬が濡れてる。」


颯太は、自分の手で夏海の涙を拭った。


「夏海…、僕と会ってから…泣いてばかり…。事故…起こしたりして、迷惑をかけて…僕は…なんて駄目な奴…。」


「颯ちゃん…、そんな事ない。」


颯太の目から、一筋の涙が伝って落ちた。夏海は、それを手で拭った。