次の朝は、一面の銀世界だった。
お天気は快晴。
フェリーは、時間通りに出航した。

「母さん、冬の海もいいね。」


聡は、昨日稚内に着いてから、浮かれていた。


「聡はいいわね。昨日から嬉しそう。」


「だって母さん、こんな景色は見た事ないもの。」


夏海は、もう一度メールしてみた。

暫く待ったが、やっぱり返事はなかった。
きっと颯ちゃんは、仕事で忙しいんだわ。夏海は、そう思いなおした。

フェリーは、定刻通りに礼文島に着いた。


懐かしい港。

懐かしい景色。

そして、懐かしい顔があった。


「父さん、元気だった?」


「夏海、良く帰って来た。」


夏海は、涙ぐんだ。


「おじいちゃん、僕どっちだかわかる?」


聡がおどけて言う。


「ははは、聡だろ。お前の母さんから、聞いてるからな。聡も大きくなった。頼もしいね。」


「うん、おじいちゃん、会いたかった。お世話になります。」


「寒いから、早く乗れ。」


「おじいちゃん、僕が運転しようか?」


聡が言う。


「雪道を運転した事のない者に、任せられないよ。」

おじいちゃんが言った。


「残念だな、俺、一度雪道を、運転して見たかったんだ。」


「聡、これからいくらでも出来るでしょ。」


夏海が笑った。


「そうだね、母さん。俺、頑張るよ。」


「聡、お前は、偉いな。」


「うん、頑張るからね。おじいちゃんにも楽させてあげる。」


夏海達は、家に着いた。夏海の母が待っていた。


「夏海、おかえりなさい。」


後は何も言わなかったが、母の気持ちはわかる。
苦労してきた娘を労る、優しい目だった。


その日から、颯太に連絡しても繋がらなかった。

夏海は、故郷に帰って安心したのも束の間、又、新たな悩みが生まれた。