「…あ…っ!」
《あの人…、同じ大学…だったんだ…》

心なしか…、何かの縁を感じずにはいられない…と、思った…


「おはよぉ~っ! 瑞希ちゃん」

と、瑞希の肩をポンと、軽く叩く人物がいた…

瑞希は、その声が聴こえた方を振り返る…

「あ、おはよう…。瑠樺ちゃん」

大学の入学式で、隣同士になった今野 瑠樺(るか)だった…大学で出来た初めての友達…

瑠樺は、栗色に近い茶色の髪にクルクルと緩めのパーマを当てている…

背は、瑞希より少し小さいくらいだが…細身で小柄なスタイルを活かしている…自分が可愛く見える服装やメイクをよく知っている…

朝から、機嫌よく笑顔を振りまいている…


無難な…、地味に近い…格好をしている瑞希とは確かに違う…


「あ! 成宮くん、来てるゃ…」

と、瑠樺の口から発せられた名に…、瑞希は何度か聞き覚えがあった…

瑠樺が入学式から話していた…高校からの同級生・成宮 悠(ゆたか)のことだと、瑞希も気がついた…

「……」
《『成宮くん』って、瑠樺ちゃんの口からよく聞くけど…》

品行方正で、成績もよく…運動神経も良い…稀に見る天才だという…

…な、上に…かなりの美形だという話だ…


瑠樺は、瑞希の腕を掴み…構内を駆けていく…

「成宮くーん!」

「ちょっと! 瑠樺ちゃん…っ! 急に走らないでっ」

腕を引かれた瑞希は、動揺を隠せない…。瑠樺は、先程瑞希が助けられた青年の目の前まで来ていたからだ…

それだけで…、瑞希の心臓は再び、早鐘を打ち始めていた…

「おはよう! 大学生になって初っ!だよね? 学部、違うから…全然、会えないよね?」

そぅ、先程の彼の顔を覗き込むように言った瑠樺…。。瑠樺は、屈託のない笑顔を彼に見せる…

「…おはよ。相変わらずだな…瑠樺は、朝からテンション高い…」

そぅ、先程とは違い…目の前の彼は、微かに吹き出しそうになりながら…そぅ、言った…

心なしか…、発せられた声のトーンが、先程電車内で交わした彼の声より優しく感じられる…

その表情を目にし…、先程とは違う…柔らかそうな笑顔に、胸が痛くなった…

「…あ、彼女は…?」

「入学式で、友達になった鷺森 瑞希ちゃん!」

そぅ、瑞希の紹介をし始めた瑠樺…

「同じ…大学だったんだ…」

瑠樺に向けられた視線や表情だけでなく…、瑞希に対しては、壁を作っているかのように…声質も違うような気がした…

「あれ? 2人とも知り合い?」

そぅ、瑞希と悠を交互に見つめる瑠樺に…

「あ、さっき…電車で痴漢から助けてくれたの…」

瑠樺に、何とか…無関心を装いながら…そう言っていた…

「そうなんだ~! やるね~!」

「じゃ、俺、講義あるから…」

そぅ、2人から立ち去ろうとする悠…

悠は、踵を返し…歩きだそうとする…その瞬間、瑞希と視線がぶつかった…

その瞬間、ようやく…自分の方を見詰めてくれた…

瑞希は、その一瞬に…、何もかも奪われそうだった…

「やるな~! 痴漢から助けるなんて、王子かよ?」

と、悠の背中を見つめながら…、そう言葉を発した瑠樺…

が、次の瞬間、瑠樺は瑞希の方に視線を向け…

「瑞希ちゃん! 講義終わったら彼のバイト先に行かない?」

その、瑠樺の言葉に、瑞希は、ドキッとし…肩を上下させた…

「え…? 何で…?」

「まぁ、とにかく! 一緒に付き合ってよ…!」

瑠樺の言葉に、断る理由も思い浮かばす…ただ、頷き返した…

「……っ」
《瑠樺ちゃんって…、彼のこと…、好きなのかな?

この反応って…っ。彼のバイト先に行きたい…だなんて。。

そうよね? きっと。。

彼も…、明らか…に、瑠樺ちゃんに対しては対応が違うし…


ま…ぁ、初対面だし。。

ちょっと…、カッコイイかな?って思っただけだけど…

なんか…、近寄り難い人だな…っ》

瑞希の返事を聞き、瑠樺は上機嫌になっていた…

その反応に、瑞希は気が重くなっていくのを感じた…

「……」
《成宮くん…か…

瑠樺ちゃんには、ちゃんと話をしてくれるのね…っ

仲良さそうだったし…、知り合いだから、仕方ないけど…

瑠樺ちゃん、可愛いし…お似合いだ…二人とも…


なんか、お邪魔みたいなのに…っ》

そぅ、微かに肩を落とした瑞希に、瑠樺は気づかずに…ニコニコと満面の笑みを浮かべている…


ただ、ほんの少しだけ…かっこいいかな?と思っただけ…と、瑞希は自分に言い聞かせた…

たった一瞬…、会っただけの彼を…気になるとは、自分でも認めたくなかった…とも言える…