兄の溺愛がマジでウザいんですけど……《完》

「美衣のご両親には、本当にお世話になったのよ。

お母さん、スーパーに勤める前は、美衣のご両親の工場で働いていたの……」



そんな話、初めて聞いた。



私は、振り返ってお母さんを見上げた。



「家族経営の小さな食品工場でね。

そんなに楽な経営じゃなかったけど、しっかりお給与いただいて、面倒見てくださった。

あの日、ちょうど要が熱を出して、私は仕事を休ませてもらった。

いつもは、美衣のママと私が、二人で配達に出ていたの。

それが……休んだ私の代わりに、美衣のパパが、ママと一緒に配達に出てしまった」



そう言ってうつむいたお母さんは、涙ぐんでいるように見えた。



「ごめんなさいね……

あの日、私が仕事に行っていれば、美衣のパパとママが一緒に車で出ることはなかった。

私が休まなければ、美衣のパパだけでも助かったかもしれない。

もしかしたら私が休んだことで、配達にゆとりがなくなって急いでいたのかもしれない。

私は、幼い美衣からご両親を奪ってしまった」



「お母さんのせいじゃないよ……」



私の言葉に、お母さんは小さく首を横に振った。



「せめてもの償いに……

私は、美衣を自分の娘として、立派に育てようと決めたの。

この子が大人になって、素敵な人を見つけてお嫁に行くまで、親として見守ろうと思った。

いつかはお嫁にやらないといけないと思ってたけど……

美衣が要と結婚したら、ずっと美衣は、私の娘ね」



お母さんは、目に涙をためて微笑んだ。