「先輩、私やっぱりお受けできません」

ガタッと勢いよく立ち上がると、先輩の呼び止める声にも
振り返らずに私はひたすら走り続けた

会えるかなんて分からない

会社も家も何も知らない

知ってるのは無愛想な顔と名前だけ

だけど、、、

偶然会った交差点の信号機にたどり着いた

いるわけないんだけど

「ハァー、なにやってるんだろ私」

呟いた独り言は目の前にいる無愛想男が拾い上げた

「本当に、何やってんだ?こんな真冬に汗だくかよ」
「え?なんで、いるの?」
「なんでって、帰るとこだが」

見ると時計はもうすぐ18時になろうとしてた
必死すぎる自分が滑稽で笑えてくる

何かを悟ったらしい無愛想男は私に一歩近づき

「交渉成立だな」

口角をあげると右手を差し出した