翔平を誘う。
それはあたしの中で最上級レベルのミッションだ。

「……なんだよ」
「いや」

翌日。
入った資料室でたまたま出くわした翔平をいつの間にか見つめ続けていたらしく、視線に気づいた翔平に訝しげに見られた。

「……翔平は今日も忙しいの?」
「今日も会議尽くし。商品化の直前は毎回こんなんだろうが」

流石に疲れているのか、翔平の声に棘がある。当たり前のこと、いちいち聞くな、馬鹿野郎って言葉が後ろに続いてそうだ。

……無理だよ。無理だよ。
誘えないよ、矢部っち。

翔平は会議が嫌いなのだ。元が根っからの研究家肌なせいで無駄にダラダラと議論するだけの会議が続くとピリピリするのだ。

「あ、会議の時間。だり」

あたしが悶々としている間に翔平は部屋を出て行く。

「う〜」

どうすんの。懐中時計はまだ返してもらってないのに!
項垂れたら、今度は棚に並べられた文献に衝突した。イタタと頭を摩るあたしをあざ笑うかのように、ポケットに入れたスマホが震える。
見ればラインの通知がひとつ。

〈呑み会は12/25がいいっす。俺その日休みなんで!〉

図々しい!
舌打ちひとつしてスマホを投げつけたい衝動に駆られたが、画面が壊れるのでやめた。