矢部っちはまるで嵐のような人だ。
急に現れて、あたし達をかき回すだけかき回して、あっという間に去っていく。

昔からそうだった。
あれだけ自分勝手で俺様な翔平を振り回すのだから、大したものだと思う。別に褒めてないけど。

「……で?いつになったら、離してくれるの?」

未だに抱きしめたままの翔平に言う。今更だけど、ここは外なのだ。暗くて人通りも少ないけれど、外なのだ。

「おう。すまん」

謝る割にその腕は動かない。

「だーかーら」
「茉咲。あと30分待てるか?」
「は?」
「30分で仕事を片付ける。それから、俺ん家行くぞ」

翔平ん家?なんで……。
今まで行ったことないのに。

「お前、俺と一緒に居たいんだろ?クリスマスだもんな」

頭をポンポンされる。翔平はそっと体を離すと、意地悪そうに笑って、あたしのことを覗き込む。

「夏でも秋でも、『赤鼻のトナカイ』歌うもんな、お前。実はクリスマス大好きなんだろ?」
「なっ……!」

まぁ確かに、鼻歌歌うけど!
テンション上がるから歌うけど!

「あたしはクリスマスが好きなんじゃなくて、翔平が好きだからクリスマス一緒に居たいだけ!」

そう言ってやると、翔平は珍しく可愛いぐらいに、頬を赤く染め照れていた。