差し出された名刺を躊躇いながら手に取り、流暢に言葉を並べていく寅毅くんを見上げた。


(なんだか、寅毅くんによく合ってるなぁ。そのバイト)



「じゃあ、そこでバイトしてるの?」


「そっ。良かったら来てみて。んで、俺を指名してなっ?」


こう言って浮かべる満面の笑みは、営業スマイルってヤツなのかな……。


わたしはその笑みにただ、ヘラヘラと力無く笑い返すのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


その日は駅前に買い物があったので、一人でぶらぶらと寄り道をして歩いていた。



「あれ……」



駅前に並ぶ様々な店舗の中にある、上品な雰囲気をまとったジュエリーショップ。


その店の前で、わたしは思いがけない人物を目にした。



(……寅毅くんだ)



そこにいたのは、ショーウィンドー越しに丁寧に並べられた指輪を熱心に見つめる寅毅くんだった。



そこに並んでいたのは、様々なデザインがあしらわれたペアリング。


そして、それを見つめる寅毅くんの表情はどこか切なげで……声をかけようとした足が思わず止まってしまった。



(珍しいな……。こんな表情)