『The story of……』

試合当日。


結局、あれから一度も市原くんとは話をしてない。

それどころか、同じ教室に居ても視線すら合わなかった。



本当は見に来るつもりは無かったけど、なんとなく足が学校に向いていた。



(市原くんは、わたしが来たりしたら嫌がるだろうな……)


グラウンドから聞こえる歓声を避けるように、わたしは自分の教室へと駆け込んだ。


窓越しに見えるグラウンドを、颯爽と走り抜ける部員たち。


その中でも、わたしの視線が見つめる先はただ一つ。


「市原くん……」


真剣な表情で、グラウンドを駆け抜ける市原くんの姿。


そこに、わたしと他愛ない会話をしていた市原くんは……居ない。


そこに居るのは沢山の声援と、熱い眼差しを受けるサッカー部期待の二年生レギュラーの顔をした市原くんだけ……。


(最初から……市原くんの目に、わたしなんか映ってなかったんだ)



試合終了のホイッスルと同時に、わたしの目からは涙が止めどなく落ちた。



3対2でサッカー部の勝利。
最後の得点を決めたのは、他でもない市原くんだった。


(……あっ)
グラウンドで挨拶を終えた市原くんと、視線が重なった。