『The story of……』

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


映画の約束の日。

部活のミーティングがある市原くんとは、現地で待ち合わせすることになっていた。


(市原くん、早く来ないかな)


そわそわと落ち着き無く携帯の時計とにらめっこしていると、


「上総っ」

「……えっ」


わたしの前には何故か市原くんで無く、二塚くんが立っていた。


驚いたわたしの顔に、


「諫音、どうしても外せない用事が出来たって」



慌てて自分が来た理由を説明する二塚くん。


「そっか……」



あんなに楽しみにしていた映画が、一気にくすんで見えてくる。

だって、わたしが楽しみにしていたのは映画の続きなんかじゃない。


市原くんと観る映画が、楽しみだったんだから……。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


翌日。

教室で顔を合わせた市原くんに、


「昨日、ごめん」


ただ一言だけ謝られた。
そこにいつものような笑顔も、雰囲気も存在しない。


淡々とした、社交辞令のような謝罪。


(いつもの市原くんじゃないみたい……)


市原くんの態度の変化に、胸が締め付けられるように痛かった……。



(どうしちゃったんだろ……市原くん)