『The story of……』

ずっと俯かないって決めていたのに、もうわたしの顔は正面を向いて居られそうになかった。


「……なんで、わたしに言うんですかっ」


「えっ?」



ずっと堪え続けていた涙が止めどなく溢れ、赤らんだわたしの頬を濡らしていく。


ぼやけた視界には、数歩先でわたしを見つめる優申先輩が映った。



「もう、更紗さんの話……わたしに、しないでください……辛い、です」



言ったら嫌われると思ってずっとガマンしていたのに、とうとう言ってしまった。


無理矢理優申先輩の傍に居たのは、わたしなのに……。


嫉妬するなんて、お門違いも良いところだ。


「……完敗ですね、わたし」


「…………」


「先輩の心にもう一度温かい感情が戻せればって想い続けたけど……やっぱり無理でした」



最後くらいは先輩の迷惑になりたくなくて、わたしは精一杯の笑顔を作ってみせた。


正面の先輩はただ、そんなわたしをぼんやりと見つめているだけ。



「さようなら、優申先輩」



次の涙が零れてしまわない間に、頭を下げたわたしは勢い良く旧音楽室を駆け出した。