『The story of……』

「あっ、上総さん」


「遠野(トオノ)さんっ」


靴を履き替えて玄関を出た所で、クラスメートの遠野 恵利(トオノ エリ)さんと出会した。


わたしに笑顔で手を振ってくれる彼女の隣には、遠野さんと似た目元をした女の子が立っている。


「これ、お姉ちゃんの麻利(マリ)」


「こんにちわ~」


遠野さんと同じ、人懐っこい笑顔をしたお姉さんがヒラヒラと手を振った。


それに応えるように軽く会釈を返した時だった。



「ぅげっ!!」


背後から聞こえたとんでもない唸り声に、思わずそちらを振り返った。


唸り声の正体は、まだ新しい制服に身を包んだ男の子のもの。


彼はわたしの後ろに居る遠野さん姉妹を見つめながら、悲壮な顔をして後ずさりをしていく。


「待ちなさい! 聡利(サトリ)」


聡利と呼ばれた男の子は、素早く詰め寄った遠野さんに捕まり、


「逃げちゃダメじゃなーい。今日はお姉ちゃんたちのお手伝いしてくれる日でしょ?」


お姉さんに優しく笑顔で諭されている。


「お手伝いって……買い物の荷物持ちだろっ! 嫌だ!」


必死に抵抗する聡利くん。
両脇に立つ遠野さんたちが仁王像に見えてくる……。