「更紗が居なくなった今、十八になった僕には……何もない」
「っ!!」
そう言って目を伏せた先輩の顔は、何もかもを諦めたような表情をしていて……わたしは泣きたくなった。
(どうして……わたしって言ってくれないんだろ。わたしは……先輩の瞳に映ることは出来ないの?)
目の前に居るわたしは、優申先輩にとって……何なんだろう。
わたしはただ、先輩に笑っていて欲しいだけなのに……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
段々とこの時間が来るのを、憂鬱に感じてしまうようになっていた。
いくら呼び掛けても合わない視線。
幾度と無く先輩の口から出された、更紗さんの名前。
わたしという存在が如何に先輩に必要とされていないかを実感するばかり。
それでも諦め切れずに、わたしはまたここへ来てしまう。
(今日こそは……少しでも先輩の心が開かれますように……)
祈るような気持ちで旧音楽室のドアを開けた。
今日の先輩はいつもの窓際の席でなく、教卓の斜め後ろにあるピアノの椅子に腰をおろしていた。

