『The story of……』

九谷先輩の中に少しでもわたしという存在を受け入れて欲しい。



わたしの幼くも頑なな恋心は、着実に大きくなっていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


九谷先輩にどうしても近付きたくて、わたしは放課後の旧音楽室の入り口の前に立っていた。



その隙間から見えるのは、初めてここで九谷先輩を見たときと同じ。


静かな表情で、緩やかに暮れていく夕日を見つめていた。



(……なんだか、どこか遠くを見ているみたい)



いつもは優しい笑顔を湛えた先輩の顔からは、儚さや憂い……そんな寂しさが滲んでいるみたいだった。



「……あれっ?」


「っ!!」


入り口で立ち尽くすわたしを見つけた先輩が、すぐさまいつもの笑顔を向けてくれる。



「何か用、かな?」



いつもの柔らかな口調。
首をふるふると振って否定するわたしに、


「こっちおいで?」


先輩は優しい笑顔のまま、わたしを手招きしてくれる。


それが嬉しくて、思わず子どもみたいな笑みを浮かべながら駆け寄った。