『The story of……』

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旧音楽室のある校舎の別館は、滅多に使われることのない場所なせいかやたらと静まり返っている。



窓から差し込む夕日を浴びながら歩く廊下は、わたしの足音以外何も聞こえない。



使われていない教室をいくつか過ぎた所に、目的の旧音楽室はひっそりと佇んでいた。



その入り口の前で足を止めたわたしは、


「ふぅ……」



静かに深呼吸。
少し逸る気持ちを落ち着けた。


(よしっ!)


ぐっと旧音楽室のドアを見据えた後、そっとドアノブを引く。
ゆっくりと開いていく扉の隙間から、



(あっ……)



数日前に見た綺麗な横顔があった。


(九谷先輩だ!)


夕日の漏れる窓を、机に座り込んだ九谷先輩は静かに見つめている。



それを入り口からぼんやり見つめていたわたしに気付いたのか、こちらを向いた九谷先輩。


一瞬驚いた顔をして、慌ててお辞儀してみせたわたしが顔を上げた時には、



「愛都ちゃん」



初めて会った時みたいな、綺麗で優しい笑顔でわたしの名前を呼んでくれた。