「ここ……かな」


始業式から一週間。
昨日の夜に焼いた手作りクッキーを持って、わたしが向かったのは三年一組の教室だった。



「何か用?」

「あ、あのっ」


入り口で立ち往生していたわたしを、教室から出ようとしていた女の子の先輩が声をかけてくれた。



いつまでもこうしていても仕方無いし、意を決してわたしは一人の先輩の名前を出す。


「九谷先輩、いらっしゃいますか?」


「九谷くん? えっと……」



わたしの言葉で、先輩は放課後の教室をキョロキョロと見渡して九谷先輩を探してくれている。



そもそもわたしが、手作りクッキーまで持って九谷先輩を尋ねてきた理由。



数日前に生徒手帳を拾って、わざわざ届けてくれたお礼のつもり。



わたしがそんなことを考えている間に、先輩は教室に居た男の子に何やら尋ねてくれていた。



戻ってきた先輩は、


「九谷くん、旧音楽室に行ったみたいよ」


にこっと微笑んでこう教えてくれた。
その先輩にペコリとお辞儀してお礼を告げ、わたしは手作りクッキーを握り締めて旧音楽室を目指した。