「わぁっ。キレイっ」
館内には大中小の水槽が所狭しと並んでいて、
「この色、可愛いっ」
キレイな魚や可愛い小動物まで、様々な生き物たちが見る人を飽きさせない。
声をあげて喜ぶわたしの隣で、水槽を見つめる八木くんの表情は心此処にあらずと言わんばかりにぼんやりしていた。
(……どうしちゃったんだろ)
そんな調子で回っていた八木くんの足が不意に止まった。
薄暗いフロアに大きな水槽が広がっている。
(……どうしたんだろ)
水槽から少し離れた場所から、じっとそれを見つめ続ける八木くんの視線。
その瞳が捉えていたのは、水槽の中を泳ぐ魚やサメではない。
両親に手を引かれ、楽しそうにはしゃぐ小さな男の子だった。
そんな八木くんを見上げていたわたしに、
「……ここは、両親と来た最初で最後の思い出の場所」
「…………」
視線をそのままに、八木くんはゆっくりと口を開いた。
「駆け落ちで結婚して、五歳の時に家業を継ぐ為に父親の実家に住むことになった」
(それが理事長のことなのかな)

