『The story of……』


「うんっ。卵焼きだね」


照れくさそうな八木くんの表情に、自然と顔が綻んだ。

さっきまでの硬い表情よりずっと、今の八木くんの方が良い……。



「……カゴ持つ」


「ありがとうっ」



笑顔でお礼を告げるわたしから、八木くんは気まずそうに顔を逸らした。



(意外と照れ屋だなぁ。八木くん)



そんな彼に零れそうになった笑い声をかみ殺しながら、わたしたちはお弁当の食材を選んでいった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


学校に戻ったわたしたちは、生徒会長の権限で家庭科室を解放して貰った。



(ちょっとズルいけど……今回だけ使わせて貰おう)



こうして八木くんの目の前で、八木くん用のお弁当を作っていく。


それをずっと傍らで黙って見ている八木くんは、本当に小さい子みたいだ……。


そんな彼の前に、


「ハイ。出来たよ」

「…………」


わたしは出来たばかりのお弁当を差し出した。



「買い物から付き合って貰ったから時間かかったけど……八木くんの為に作りたかったんだ」


差し出されたお弁当を受け取った八木くんは、ただわたしと手のひらのお弁当を交互に見つめている。