「おいっ」


部室棟を抜けた先で待っていた思いがけない人物。

相変わらず険しい表情をした名波くんに、わたしは呼び止められた。



「……名波くんっ」


練習着姿を見るのは初めてだ。


(これが、本当の姿なんだよね)



「人に逃げるなって啖呵切ったくせに、逃げるのか」



わたしがマネージャーを断ったことだろうか……。



正面からこちらを見据える名波くんを、わたしはただ見つめ返していた。



「逃げるも何も……最初からこういう約束だもん」



マネージャーさんが復帰するまでの、臨時マネージャー。
それが、わたしの肩書きだった。



「マネージャーとかどうでもいい。……俺から逃げるのかって聞いてんだ。お節介女」


「名波くんからっ?」



訝しんで見上げた名波くんは、ジリジリと間合いを詰めてくる。


「散々お節介しといて、途中で投げ出すのか?」


「投げ出すも何もわたしは……っ!」



伸ばした手に捕まったわたしの前に、あっという間に名波くんのアップが広がった。