「ほら、笑って」
「な、なに?」
こわごわと目を開ければ、悠生がスマホを二人に向け、写真を撮っていた。
「俺との写真、送るんだよな?」
楽しそうに写真を撮りながら、悠生は更に強く芹花を抱き寄せる。
露わな腕に悠生の体温が直接触れて、芹花はそれ以外感じられなくなった。
「ほら、ちゃんとスマホを見て笑えよ。元恋人の結婚披露宴で見せびらかすドレスをプレゼントしてもらうんだから」
「写真って、あ、そうだ。綾子にまだまだ送ってって言われていたんだ」
今日一日、濃密すぎる悠生との時間を過ごし、すっかり綾子のことを忘れていた。
昨夜送ってしまった写真のこともまだ悠生に伝えていないことも思い出し、慌てた。
「あの、この間二人で撮った写真なんですけど」
「ん? 芹花のスマホの待ち受けにした写真?」
「はい。料亭で撮った写真を友達に送ってしまって。それで、あの、綾子が悠生さんのことを知っていて」
途中言葉に詰まりながらそう言えば、悠生は首をかしげた。
二人の頭上に掲げて写真を撮っていたスマホをおろしたが、相変わらず芹花を抱き寄せたままだ。
「俺のことを知っていたらまずいのか?」
悠生は世間に自分の顔と名前が知られていることは自覚しているし、慣れている。
芹花が今更そのことで慌てていることにおかしくなる。
「だって、悠生さんが木島グループの御曹司だと知っていて、でかしたって大喜びで、地元の友達に知らせるって大騒ぎなんです。写真を広めるのは止めたんですけど、私の恋人が悠生さんだって誤解しちゃったし、どうしよう」
悠生と過ごす時間が楽しくて、そのことをすっかり忘れていた。
ドレスどころではなかったのだ。

