まるで恋人を説得するような甘い響き。強い意志を含んだ瞳に射られれば、頷かないという選択肢は残っていない。
「うん……」
魔法にかけられたように答えると、悠生は目を細め満足気に笑った。
「似合ってる。桐原さんのドレスはどれも素晴らしいけど、これは芹花のおかげで一層素晴らしい」
「な、なんで、そんなことをサラリと言っちゃうんですか」
耳元に落とされた言葉に、芹花は照れる。
「ドレスは桐原さんの作品だから誰が着ても素敵に見えるんです。私なんて貧弱な体でありふれた顔だし、ドレスの魔法が私を普段の数倍可愛く見せてるかもしれないけど。とにかく、悠生さんは錯覚を起こしてるんです」
間近にある悠生の顔を見られなくて、芹花は視線を泳がせながら早口でまくしたてた。
「そうだな。俺も桐原さんがここまでいい仕事をするって知らなかったな。兄さんの奥さんのウェディングドレスもそれほどじっくり見なかったし」
悠生は芹花の肩を抱くと、前夜のように頬を寄せた。
悠生の指先が肩をするすると撫で、芹花の肌は熱を帯び、震えた。
「あの、悠生さん、近すぎるんですけど」
そっと体をずらそうとしても、思いの外強く抱かれていてどうしようもない。
体を小さくしたまま戸惑う芹花に、悠生はさらに熱い吐息を重ねた。
「キスでもする?」
その瞬間、カシャリという音とともに芹花の目の前が光った。
「え?」
何が起こったのかわからず目を閉じても尚、音と光は続く。

