芹花は店内のドレスを見ながら夢見がちにため息を吐いた。
「あら、木島さんがドレスだけでなく靴やバッグも買ってくれるはずよ。そうでなかったらわざわざここに芹花さんを連れて来ないわよ。ね?」
からかうような視線を向けられた悠生は、動じることなく口元を緩めた。
その表情から、やはり悠生が芹花のためにドレスをプレゼントしようとしていると察した芹花は首を横に振った。
「まさか、大丈夫です。あの、私にはやっぱりもったいないというか贅沢だし。素敵なドレスばかりですけど、また妹と一緒に来ます」
「妹さん?」
「はい。妹はピアニストを目指していて、いつか桐原さんのドレスを着てステージに立つのが夢なんです。今は母が衣装を作っているんですけど、実は桐原さんの衣装をちょっと参考にさせてもらってるんです」
「まあ、そうだったの」
芹花の言葉に、恵奈は気を悪くした様子もなく、優しく笑った。
「でも、実際に本物のドレスを見たら、本当に素敵で……音大に合格したらお祝いに買ってあげようかなと思います」
「音大? 大変ね。受験が控えているなら今は一日中レッスンでしょう? 実は私も音大を目指していたの」
恵奈は秘密を打ち明けるように小声でそう言って、肩をすくめた。
「私も子供の頃からピアノを習っていてね、発表会やコンクールの衣装は母が作ってくれていたのよ」
「桐原さん、音大出身なんですか?」
驚いて大きな声をあげた芹花に、恵奈は「そうじゃないのよ」と答えた。

