「やっぱり本物は違います。妹は、桐原さんのドレスのファンなんですけど、なかなか手が出せなくて。あ、経済的に難しいんです。だから、参考にさせてもらいながら母が作ってくれるドレスを着て発表会に出てるんです。だけど、やっぱりいいなあ」
杏実が小学校の頃からドレスを作り続けてきた母の腕前はなかなかのものだが、やはり本物には敵わない。
杏実は公立高校の音楽家に通っていて、音大受験に備えて週に五日受けている個人レッスン料や発表会のたびに用意しなければならない費用はかなりのもの。
そうなれば、決して安くないドレスを用意する余裕はなく、手作りするしかないのだが、こうして極上のドレスを目の前にすれば、一度くらい桐原恵奈のドレスを着せたあげたくなる。
芹花は興味深げに店内を見回した。
杏実のように演奏会で着たり、結婚式に参列する時に着るドレスなどがたくさんあって、ワクワクする。
広い店内には女性客が大勢いて、どの顔も笑顔だ。
「だけど、桐原さんと悠生さんが知り合いなんて、びっくりです」
「仕事で恵奈さんのご両親の財産の管理を担当してるんだ。ご両親はかなり有名な家具職人で、隣で店を開いてる。その関係で恵奈さんとも知り合って、俺の兄が結婚する時には忙しいのに無理を言ってウェディングドレスを作ってもらったりもしてる」
「桐原さんのウェディングドレスなんて、何年も前に予約しないと作ってもらえない幻のドレスですよね。いいなあ」
「ウェディングドレスもいいけど、今日は披露宴で着るドレスだろ? 好きなものを選んでいいぞ」
「え?」
ウェディングドレスをあれこれ想像していた芹花は、我に返った。

