「ここ、家具屋さんじゃないんだ」
芹花は肩を抱かれたまま、店の中を興味深げに観察する。
店の真ん中には白く華やかなドレスがかけられ、壁一面に色とりどりの洋服が並んでいた。
「知り合いの店なんだ。入ろうか。商品が多いから、気をつけろよ」
悠生に背中を押されながら店内に入ると、たくさんのドレスで溢れていた。
歩くのにも苦労するほどのドレスに圧倒されながらきょろきょろしていると、マネキンが着ているオレンジのドレスが目についた。
「これ、杏実に似合いそう」
経済的な理由で杏実の衣装はいつも母の手作りだが、発表会などのステージで演奏するキレイに着飾った杏実を思い出した。
「もしかしたら、これ、杏実が雑誌を見ながら欲しいって言ってたドレス?」
店内の目立つ場所のマネキンが着ていたのは、光沢のあるレモンイエローの生地がたっぷりと使われたドレスだった。
スカート部分はたくさんのプリーツで豊かに広がり、胸元は細かな模様が施されたレースが使われ愛らしさを増している。
見れば見るほど杏実が気に入っていたドレスに似ていて、芹花は興奮した。
「あの、ここって桐原恵奈さんのお店じゃないですか?」
芹花の問いに、悠生は驚いたように頷いた。
「ああ、知ってるのか?」
「はい。妹が桐原さんのドレスのファンで、私も一緒にHPを眺めることがあって」
「そうだったのか。演奏家がよく買いにくるって聞いてたけど、やっぱり人気なんだな」
芹花はドレスにそっと手を添え、生地のなめらかさにほおっと息を吐いた。

