「パンケーキは楽しみだけど、芹花を今すぐ追い詰めるつもりはないから安心しろ。まあ、それも時間の問題だけど」
「は、はい?」
「ん? いや、これからじっくり楽しもうかなと……。あ、それより、披露宴で着る服を買いに行くって言ってたよな」
「そうです。服とか靴を買いたいんです」
突然パンケーキから話題が変わり、芹花は慌てて答えた。
綾子が結婚式までまだ一ヵ月あるが、イラスト集の発売も控えている今、仕事で休日がなくなる可能性も高い。
できれば今日気に入るものを見つけておきたい。
「元恋人の結婚式だから、気合も入るよな」
悠生の硬い声が車内に響き、芹花は視線を向けた。
「芹花を手放したことを後悔させて、笑ってやればいいんだ」
「笑ってやるなんて、考えたこともないんですけど」
「そうか? だけど、悔しいだろう? せいぜい幸せそうな姿を見せてやればいいんだ」
悔しがっているのは芹花ではなく悠生ではないのかと思わせるほどの低い声に、芹花は戸惑った。
それと同時に、悠生に服を選んでもらえという綾子からのメッセージを思い出した。
偶然とはいえ、ドキリとした。
「行きつけの店はどこだ? このまま連れて行くけど」
「え、行きつけってほどの店はないんですけど」
行きつけの店を強いて挙げるならファストファッションだが、悠生が求めている答えではないのは明らかだ。
「じゃあ、どこか行きたい店はあるのか?」
「とりあえず、百貨店にでも行ってみようかなと思ってたんですけど」
「ふーん。だったら俺がスーツを仕立てる百貨店の外商に電話していくつかドレスを用意してもらってもいいけど」
「い、いえいえ、とんでもない。外商なんて」
芹花はそう言って、首をぶんぶんと横に振った。
外商という響きに驚き、助手席の背に体を押し付ける。

