けれど。
礼美の披露宴に地元の友達みんながちゃんと出席し、なんの騒ぎも起こさないためには仕方がなかった。
芹花が新しい恋人と幸せならば、礼美への怒りを胸に納めてくれるはずだ。
芹花は、礼美の結婚式が無事に終わってしばらく経った頃に「縁がなかったみたいで別れちゃった」と言えば、綾子だけでなくみんな悠生のことは忘れてしまうだろうと考えていた。
だからこそ、悠生の写真を気楽に綾子に送ったのだが。
「それほどの有名人だって、知らなかったな」
芹花は世間の流行や話題に疎く、悠生の存在も知らなかったのだが、こんな事態になり、これまでの自分を心から悔やんでいる。
綾子が悠生を知っていたのは想定外のことだったが、芹花が悠生の写真を利用したことが悠生にばれることはないはずだ。
後ろめたさと申し訳なさはあるが、仕方がない。しばらくの間、にせの恋人ということでどうにか乗り切ろう。
芹花は罪悪感から目を逸らすように自分にそう言い聞かせた。
「くれぐれも写真を拡散させないように綾子に念押ししておかなきゃ」
時計を見れば九時半を少し過ぎている。綾子も起きているだろう。
綾子に電話をかけようとして、芹花は、そういえば、と思い出した。
披露宴で着るドレスを綾子はすでに用意していると言っていたが、芹花はなにも考えていなかった。
「来週は仕事も忙しいし、今日、出かけて探そうかな。あ、綾子に一応相談したほうがいいか……」
芹花が綾子の電話番号を呼び出そうと、まだ慣れないスマホをぎこちなく操作していると、突然着信音が響いた。

