極上御曹司に求愛されています


『それは過去の話なんだよね』

勢い込んで話していた芹花を、綾子はそう言ってさらりと受け流した。

『礼美の家の会社を辞めたら路頭に迷うってのは過去の話。これだけ交通網が発達して道路も整備されたんだもん、田舎からでも車や電車で遠い職場に通うことも簡単になったし、こだわらなければこっちにもコンビニとかドラッグストアとかできたから、バイトならすぐにできる』
「あ、そういえば」

ここ数年芹花の地元には大きなショッピングモールがオープンし、近郊から大勢の人がやってきてくる。
他にも全国的に有名なレストランが進出してきたりと、それまで広大な空き地だった場所が様変わりを続けている。

「この間、二十四時間営業の大型書店もオープンするって、杏実が言ってた」

芹花の呟きに、綾子は「そうなの」と答える。

『昔と状況は変わってるの。だから、礼美を怒らせても生活はどうにかなる。それにね、たとえ親が働いていても、年をとって定年を迎えた人も多いから。気にすることもない』
「……うん」