芹花がそんな二人に感心しながらふと俯けば、握りこぶしを作り、震えている楓の手が目に入った。
強く握っているのだろう、手の甲は白くなっている。

「あ、もしもイラスト集の第二弾が発売されるなら、その時も是非オビコメントを書かせてくださいね」
 
軽やかな口調で出版社の担当者に言葉を投げかける楓の横顔も、よく見ればどことなく強張っている。

「竜崎さん……」
 
思わず漏れた芹花の声はあまりにも小さく、マイクに拾われることはなかったが、悠生には届いた。
 
悠生は優しい仕草で芹花の背中をポンポンと叩いた。
視線を合わせれば「そういうことだ」と言いたげな瞳に芹花は気づいた。
そして、悠生も楓も必死にこの場を乗り切ろうとしているのだとわかった。
同時に、悠生の芹花への思いの強さも知る。
当初の予定を覆し、二人は悠生が楓と恋人同士の振りをすることに心を痛めていた芹花のために、こうして一芝居打っているのだ。
そして、突然の婚約発表という大きなネタをマスコミに提供することで、楓との疑惑もすべて払拭しようとしているのだと、腑に落ちた。
芹花は悠生と楓を順に見遣った。
正面を見据え、ぶれずに嘘をつき通そうとしている二人に、芹花は震えた。
どれほど私は愛されているのだろう。
芹花は胸が詰まり、慌てて視線を上げた。
目の奥が熱く、こぼれ落ちそうになるものを必死で我慢するが、次第に目の前が曇っていく。
だめだ……と思った瞬間、頬を温かいものがすっと流れ落ちた。

「ありがとう……」
「え? 芹花さん? どうしたの、悠生に何かされた? まったくどれだけ彼女のことが好きなのよ。会見の時くらい我慢しなさい。終わったら存分にいちゃついていいんだからね」
 
涙を流している芹花に、楓はハンカチを手渡した。