「本日発表しました通り、私と天羽芹花は婚約いたしました。結婚式などの具体的な予定は未定ですが、決まり次第お伝えいたします。出会いのきっかけは以前の記者会見でお伝えした通りで、彼女がメニューを描いていたカフェで知り合い、ひと目惚れした私の粘り勝ちというところです」
 
そう言って、喜びを隠しきれない笑顔を浮かべた悠生に向かって、フラッシュが一斉に光った。
どうしていきなりマスコミに婚約したことを発表したのかをまだ聞かされていない芹花は、不安気に表情を曇らせたが、悠生は安心させるように頷き、言葉を続けた。

「私の自宅に天羽さんが来ていた時に、彼女から今回のイラスト集のオビコメントを竜崎さんが引き受けてくれたと聞き、これも何かの縁だと思って竜崎さんに連絡をしたんです。それ以来、何度か我が家に来てくれて、芹花を交えて楽しい時間を過ごしていました。竜崎さんはもともと芹花のイラストの大ファンで、私そっちのけで話が盛り上がっていました。そして、仕事に戻る竜崎さんを私が見送りに降りたところで撮られたのが、あの写真です。まさか二股疑惑に発展するとは思ってもみませんでしたが、これが真相です。あ、ちなみにその時、芹花は我が家で後片付けをしていました」
 
その場に集まっていた記者たちが一番聞きたかったことを、突然悠生が話したことで、なんともいえない空気が流れた。
記者たちはしばらくの間ぽかんとし、にっこりと笑う悠生を見つめていた。

「あ、あの、じゃあ、今は竜崎さんと木島さんとの間には恋愛感情は」
「ないです。たしかに若い頃お付き合いしていましたが、今はトップモデルとして活躍する竜崎さんを尊敬し、応援しています。それだけです」
 
きっぱりとそう言った悠生に続き、楓がマイクを引き受けた。
目の前をマイクが行き来する状況に、芹花はただ立ち尽くす。
そんなこと、何も聞いてないし、悠生の自宅で楓と会ったことなどない。
これは悠生と楓の芝居だろうと芹花はすぐに察したが、あらかじめ言っておいて欲しかったとドキドキする。
不自然なことは言えず、表情にも出せないことにさらに緊張感は募った。

「今木島さんがおっしゃったとおり、私と木島さんは、単なる昔馴染みです。お互いに嫌いになって別れたわけではないので、私も彼を応援していますが、どちらかといえば、大ファンの天羽芹花さんをひとり占めする彼に嫉妬しています。こんなに素敵なイラストを目の前で描いてもらえるなんて、本当に本当に羨ましいです。あ、あとで私と天羽さんの二人の写真をキレイに撮って私にくださいね。天羽さんからサインをもらって大切にします」
 
楓はそう言って柔らかな笑みを浮かべた。
キレイに施されたメイクのせいだけでなく、楓自ら放つ美しさに、記者たちは息を詰めた。
悠生も楓もこの記者会見を通じて、二人の間には何もないと印象付けようとし、スラスラと話を進めている。