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サイン会には予想以上の人が集まり、芹花はぎこちないながらも絶えず笑顔を浮かべてサインを書き続けた。
駆け付けた人の多くは以前から芹花の絵を気に入っていた人たちだったが、中には以前三井法律事務所に助けられたことがある人も少なからずいて、芹花や三井を喜ばせた。
そして、サイン会も終盤に差し掛かった頃、その場は騒然となった。
竜崎楓が突然現れたのだ。
遠目からでもそのオーラに圧倒されるほどのスタイルと美貌で芹花に花束を渡すと「後で私にもサインをしてね」とお茶目に笑い、サインを待つ列の最後尾に並んだ。
芹花はもちろん出版社の担当者も楓が来ることを知らなかったが、唯一悠生だけは知っていたようで、会場の片隅で、してやったりという表情を浮かべている。
その表情にはたまらない色気があり、芹花は時折悠生に視線を向け、幸せをかみしめていた。
悔しいが、悠生に見守られているだけで安心する。
人前に出ることが苦手な自分が、こうして見知らぬ人と握手までしているのだ。
芹花はそんな自分が不思議でならないが、悠生の存在を近くに感じるだけでなんでもできそうにも思え、この先待ち受けているに違いない戸惑いや苦労も乗り越えられるような気がしている。
再び、チラリと悠生を見れば、絶えず芹花を見ているのかすぐに視線が絡み合う。
ニッコリと笑う悠生に微かに頷いて応えると、芹花の体中が温かい力で満たされた。

