そんな芹花の思いを受け止めるように、悠生は芹花を抱く手に力を込めた。
芹花はカメラを避けるように悠生の胸に顔を埋めたが、その瞬間シャッターの音が大きく響いた。
悠生はその音に応え、笑顔を向けた。
まるで写真を撮られるのを喜んでいるような悠生をチラリと見て、芹花は混乱する。
目の前にある悠生のセーターを握りしめ、必死で考えるが、まったく訳が分からない。

「悠生さん、いったいどうしたんですか」
 
くぐもった声で芹花が問いかけた時、傍らで二人を見守っていた綾子が近づいてきた。

「公共の場で抱き合うのはやめた方がいいですよ。とくに今の木島さんは、その辺のアイドルよりも人気があるんだから」
 
芹花がこくこくと頷いた。

「ごめんね。そうだよね、みんな見てるし、部屋に上がって着替えなきゃ」
「サイン会だろう? 着替えたら俺の車で会場まで連れて行ってやるよ」
「それは、無理です。一緒の車に乗ってるところを写真に撮られたら、それこそ大騒ぎになるから、絶対だめです」
「あのう、初めまして。メッセージと電話では何度もお世話になりました、芹花の友人の綾子です」
 
芹花を抱いたままの悠生に向かって、綾子が不機嫌な顔を向けた。