マスコミが騒いでる中での顔合わせはいくらなんでもやめた方がいいだろうと芹花は思ったが。
『あら、それならマスコミに邪魔されない香港のお気に入りのホテルでお食事をしましょう』
まるで近くのファミレスでお茶でもしようとでもいうような軽やかさでそう言った緑の提案により、木島家と天羽家のお食事会が香港の五つ星ホテルで開催された。
滞在時間三時間の弾丸ツアーだったが、たまたま天羽家全員がパスポートを所持していたからこそ実現した食事会は、木島家に自分はなじめるのだろうかと芹花を不安にさせた。
反対に、芹花の家族は皆その非日常的な時間に圧倒されたのか、悠生との結婚にもろ手を挙げて賛成した。
おまけに、杏実がピアニストを目指していると知った慎哉は、自宅にあるグランドピアノをいつでも弾きにきてもいいと言って杏実を喜ばせた。
慎哉は悠生がグループのトップに立つことで心に余裕ができ、杏実をバックアップしようと思ったようだ。
まさかそんな展開になるとは思ってもみなかった芹花は目を丸くし言葉を失った。
お金持ちの道楽に杏実を巻き込むことになるのではと危惧したのだ。
それでも、グランドピアノを弾けることに大喜びの杏実に「お姉ちゃんのおかげ。でかした」と言われれば、苦笑するしかなかった。
そんな中でも悠生は絶えず芹花の隣に並び、ただ笑っていた。
悠生にとって香港での顔合わせは、思うように芹花と会えなくなる半年間を乗り越えるための大切な時間だった。
それに、本場の香港飲茶はおいしかった。
芹花は今日の披露宴の料理よりもおいしかったかもしれないと、ひっそりと笑った。

