礼美と修の結婚披露宴は、名だたる招待客が席を埋めた。
国会議員数人と、有名スポーツ選手、そして大物芸能人の顔もあちこちに見られ、芹花を始め同級生たちは何度も会場内を見回していた。
先月国民栄誉賞を受賞したオリンピック選手が乾杯の音頭をとった時には、会場内がざわめき興奮で包まれた。
「地方の社長令嬢の披露宴がここまで豪華なんだから、芹花の時はどれほどのものになるんだろうね。それこそ財界の大物とか政治家とか、芸能人もたくさん招待されそうで楽しみ。あ、私は同級生一同のテーブルじゃなくて、芹花の事務所の有望な若手弁護士のテーブルに紛れ込ませてね、是非」
オマール海老に舌鼓を打ちながら、綾子は期待を込めてそう言った。
「いつになるのかわかんないけど、前向きに検討します」
芹花も綾子に負けず、おいしい料理を堪能していた。
その一方で、金屏風の前に並んで座っている新郎新婦から、時々気遣うような視線が向けられるのが、面倒で仕方がない。
控室に挨拶に行った時にも、礼美から「本当に、ごめんなさい」と頭を下げられ、ただでさえ芹花を気遣う同級生たちから同情交じりの視線を向けられた。
おまけに会場に入場する際の新郎新婦のお迎えでは、袴姿で以前より痩せた修から必要以上に頭を下げられ、芹花はなんとも居心地が悪かった。
二人が芹花に罪悪感を抱いているのはその様子からわかったが、芹花は自分がすっかり立ち直っていることに気づいていた。
幸せそうな二人の姿から、決して束の間の愛情に溺れて結婚を決めたわけではないとわかり、心から愛し合っているのも疑いようがない。
芹花には見せることのなかった優しい仕草で礼美の腰を抱く修の姿にも、礼美への愛が溢れていた。
そんな二人の姿を見ても、芹花の心が痛むことはなく、おめでとうと素直に言うこともできた。
修を好きだったことに嘘はなく、大学時代の大半を一緒に過ごした日々はとても楽しかった。だから、芹花は修と付き合ったことを、まったく後悔していない。
それだけでなく、今となれば、修にあっさりと振られたことも当然だったと思える程度にしか、修を愛していなかった自分も、二人に頭を下げるべきなのかもしれないとも思っている。
「うーん。また木島さんからメッセージだ」
綾子が面倒くさそうな声とともに、芹花にスマホを差し出した。
「披露宴のお開きに間に合うように車を飛ばしてるって書いてあるけど。まさか御曹司の登場?」
「まさか、え、本当だ、嬉しい……あれ、そんなことしたら、まずいんじゃ」
焦る芹花の手から、フォークが皿の上に落ちた。
「外には記者の人が待ち構えているのに、私と悠生さんが付き合ってることがばれちゃうんじゃ……」
「そうだよ、確実にばれるね。あーあ、よっぽど芹花のことが心配なんだ。木島家の男が嫁を溺愛するっていうの、単なる噂じゃなかったってことか」
「まだ、嫁じゃないし。それよりも、来ないように言わなきゃ」
面白がる綾子を泣きそうな目で睨んだ芹花は、自分のスマホを取り出し悠生にメッセージを打とうとした。
そこで、芹花のスマホにも幾つものメッセージが届いているのに気づき慌てた。
そのメッセージはすべて今から会いに行くから待ってろというような内容で、芹花は呆然とした。
今二人が一緒にいるところを写真に撮られると、楓と生方との関係にも影響が出るかもしれない。
芹花はどうすればいだろうと、頭を抱えた。

