スマホ越しに甲高い声が響く中、今この瞬間は母の関心が杏実ではなく自分に向けられているんだと、口元も緩んだ。
いい大人だというのに、恥ずかしい。
それはわかっているのだが、やはりいつになっても子供は子供だ、母から注目されれば嬉しいのだ。
「まあ、その色は芹花に似合ってるわね。今度あなたに服を仕立てる時の参考にするわ」
エレベーターに乗り込みながらそう言った母の顔はほんの少し赤い。
実はこのドレスを気に入ってるのだろうかと、芹花は目を細めた。
「うん、楽しみにしてる。あ、言ってなかったけど、披露宴の後のサイン会は、今回母さんが作ってくれたワンピースを着るから。写真撮っておいてね」
「え、サイン会で?」
「そうよ。まさかこのドレスでサイン会は無理だから、着替えるの。ホテルの一室で編集部の人が待ってるから、披露宴の後で大急ぎで着替えなきゃ」
あっさりとそう言ってエレベーターに乗り込む芹花を、母が追いかける。
「そうなの……サイン会で……」
ぽつりと呟いた母の声はどこか誇らしげでまんざらでもなさそうだ。
芹花はそれに気づかない振りで行き先階のボタンを押した。
そして、いよいよ礼美と修に会うのだと、深呼吸をした。

