悠生は、黙々とついてくる芹花を振り返ると、コツンと額を合わせた。

「ごめんな。きっと、芹花には納得できないことばかり聞かされると思う。だけど、俺は芹花を苦しめてでも、芹花と一緒にいるって決めたから、前向きに諦めてくれ。どうあっても俺が芹花をあきらめることはないから」
 
悠生はそう言って、芹花を抱きしめた。

「ちょっと、悠生さん、ここは家の前ですよ。誰かに見られたどうするんですか」
 
悠生の腕の中から逃げ出そうと芹花はもがくが、いっそう強い力が込められる。

「あと少しだけ」
 
芹花の肩に顔を埋めた悠生の声が、耳元を刺激し、芹花の体は小さく震えた。

「本当に、ごめん。俺に捕まってなかったら、きっと知る必要がなかった面倒な世界に引っ張り込むことになるけど。ちゃんと芹花を守る。大丈夫だから、信じてろよ」
「だから、何を言ってるのかちっともわからない……んっ」

悠生の低く思い詰めた声に視線を上げた途端、唇が重ねられた。
熱を感じ合った途端、悠生の舌が芹花の唇を割り開いて動き回る。
ここは悠生の実家の玄関前。
いつ戸が開いて中から家族が出て来るかもわからないというのに。
頭ではわかっていても、どうしても悠生の熱がもっと欲しくて、芹花も自ら舌を絡ませた。
盛り上がった二人の気持ちがようやく落ち着き、芹花の覚悟も決まった頃合いで、悠生は玄関の引き戸を開けた。
招かれたとはいえ、十九時を過ぎている。
芹花はこんな時間に訪ねて本当に良かったのかと不安な気持ちのまま悠生の後に続いた。