「あの、甲田さん……?」
芹花はおずおずと甲田に近づき、甲田の隠れている顔を覗き込もうとした時、三井が座っている椅子が再びくるりと回り、芹花の視線が動いた。
「ここに、脱落者二号だ」
その言葉と同時に、三井が手を挙げて立ち上がった。
「俺ももう、無理だ。後ろを向いて笑いをこらえているのがばれないようにしたけど限界だな。慣れないことはするもんじゃない」
はあっと大きく息を吐き出した三井は、甲田の背中をポンと叩いた。
「ここに呼んでもいいよな? 人の恋路を邪魔するもんじゃないって、木島のお偉いさんにもマスコミにも言ってやりたいくらいだ」
訳が分からずあたふたしている芹花に構わず、三井は早口でそう言って、頷いた。
そして、つかつかと部屋の奥に歩いていくと、隣の書庫に通じる扉を開けた。
「聞いていたんだろう? 天羽さんの愛情あふれる告白を」
三井はそう言って書庫の中を覗き込んだ。
「あの?」
どういうことだろうと眉を寄せる芹花の隣で立ち上がった甲田も、意味不明な言葉を口にする。
それもかなり投げやりな口調だ。
「本当にもう、力が抜けちゃうくらいの告白だったわよ。これだけの騒ぎに巻き込んだんだからお仕置きしようと思ったのに、もう、ムカつく。とっととそのデレデレしているに違いない顔を見せてください」
「デレデレって、誰が? 私ですか?」
両手を頬に当て照れる芹花だが、その顔がやたらとかわいいと本人は気づいていないだろうと、甲田はさらに脱力する。

