「悠生さんは女性にだらしがないとか、そんな人じゃありません。家族や会社のことも考えて、銀行の仕事だってこのまま続けたいのにお兄さんのサポートをするために諦めたくらいで。自分の立場と責任を理解して我慢ばかりしてる、優しい人なんです。絶対に二股をかけたりしないし、私を裏切ったりしません」
 
出会ってからまだ日は浅いが、芹花は会うたび悠生に惹かれていった。
もちろん、御曹司という立場ではなく、彼自身を好きになったのだが、彼自身というのは、御曹司というベースが前提にあり、その立場をしなやかに受け止めている姿に惹かれているともいえる。

「そりゃ、竜崎さんとの写真を見ればショックですけど……やっぱり悠生さんを悪い人だとは思えないんです。直接会ってちゃんと話をすれば、きっと誤解だってわかります」
 
強い口調で迷いなくそう言った芹花に圧倒され、甲田は気まずそうに黙り込んだ。
三井は相変わらず椅子ごと背を向けたままだが、椅子が小刻みに揺れ、のどの奥から絞り出したような声が聞こえた。

「あの……?」
 
芹花は背もたれの向こう側の三井を覗き込むように視線を向けた。
芹花の言葉に我慢ができず怒っているのかと不安になった。

「すみません、生意気なことを言ってしまって。でも、単なる知り合いだとは言いたくないです」
 
悠生の会社からはノーコメントで対応してほしいと言われ、渋々ながらこれは仕方がないと思っているが、単なる知り合いだとは絶対に言えない。
そんなことをすれば、悠生が芹花に向けた優しい言葉や表情すべてをなかったことにしてしまうような気がするのだ。

「迷惑ばかりかけて、申し訳ないと思いますけど、私、やっぱり悠生さんのことを信じてるんです。好きだから」
 
涙ぐむ芹花の訴えに、甲田は両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。

「もう、やだ。こんなの無理。私は脱落者一号を宣言します」

 体を丸め「やだやだ、こんな悪役絶対降りる」とぶつぶつ言っている甲田に、芹花は呆然とする。