タブレットを睨む甲田の声はかなり鋭く、心底怒っているようだ。
三井も目を閉じ、うんうんと頷く。
胸の前で腕を組んでいるが、力が入っているのか手の甲が真っ赤だ。
相当怒っているのだろうと、芹花は感じた。
「ねえ天羽さん。明日の記事に対して、しばらくノーコメントで通してほしいって木島重工から言われてるけど、ここまでバカにされたらそうもいかないでしょう? こうなったら交際の事実はない、単なる知り合いだとコメントを出しましょう」
甲田は芹花の目の前に立ち、気合の入った声でそう言った。
「二股なんてする女の敵、まずは社会的制裁を与えて、そのあと法的制裁を加えてやればいいのよ。ね、三井所長」
「そうだなあ。だけど、これだけ名前と顔が知られていれば、社会的制裁だけで十分だと思うぞ。それに、後継者にはお兄さんが就くことになっているらしいから、木島グループとの関りを切ればグループのためにもなるだろうし」
三井は目を閉じたまま椅子をくるりと回し、背を向けた。背もたれから少し見える後頭部が揺れているが、そこまで怒る必要があるのかと思った。
「そう言えば、悠生さんのお兄さんも結婚前は独身女性からの人気がすごくてよく雑誌に載ってましたね。結婚してからは弟の悠生さんがその面倒な役割を引き継いでますけど、愛妻家として有名なお兄さんとは比べ物にならないですね、ホント。天羽さんも、早めにわかってよかったわね。これから男を見る目を養わなきゃ」
甲田がやんわりとたしなめるようにそう言うが、やはり芹花は納得できない。
もちろん、悠生の兄である愼哉が愛妻家であり、大企業グループを背負って立つ運命を受け入れていることも、そしてそのためにピアニストになるという夢を諦めたことも聞いている。
そして、そんな愼哉を悠生は心から尊敬し、支える覚悟であるということも知っているのだ。
だからこそ、愼哉を困らせたり会社に悪影響をもたらすようなことを安易にするとは思えない。

