苦し気な芹花の声に、甲田はため息を吐いた。
見覚えがある悠生のマンションから悠生と楓が並んで出てきた写真が写っている。
手をつないだり肩を組んだりしているわけではないが、笑顔で向き合う二人は親密で、単なる顔見知りやご近所さんという雰囲気ではない。

「さっき、木島重工からメールで送られてきたの。なんでも、この間竜崎さんひとりで撮られた写真に続くスクープ第二弾が週刊誌に掲載されるそうよ」
 
芹花を気遣い言葉を選んでいるが、甲田の声は鋭い。
いったいこれはどういうことだと怒っているのだ。

「でも、明日私と悠生さんの写真が掲載されるって……」
 
目の前の写真を見ながら、芹花は呆然と呟いた。
ブライダルフェアの時の写真が明日発売の週刊誌に載るということで、プロフィール発表を早めたというのに。

「あ、もしかして、私との記事はボツになったんでしょうか?」
「いや、残念ながらそっちも明日出るはずだ。天羽さんの記事と竜崎楓の記事は、別の週刊誌に載る。その二つの週刊誌は昔からの競合誌で何度もスクープを競い合ってきたんだが、今回は木島悠生の本命は天羽さんか竜崎さんかで火花を散らし始めたみたいだな」
 
三井はのんびりとそう言って、椅子の背に体を預けた。

「木島重工の広報部は今大混乱みたいだぞ。このままじゃ木島君は女性にだらしがない最低の男だって世間から思われる。いずれ木島グループの屋台骨となる立場なのに、イメージが悪すぎるだろう?」
 
ため息交じりの三井の声に、甲田も大きく頷いた。

「イケメン御曹司かなんだか知らないけど、二股をかけるなんて最低なオトコよ。天羽さんみたいに単純でどこかぬけてる女性の気持ちをもて遊ぶなんて慣れてるに違いないわ」
 
力強い甲田の声に、芹花は圧倒され、息をのんだ。
自分が単純でどこか抜けてるというのは納得なのだが、悠生のことをよく知らない人がここまで悠生を悪く言うのは納得できない。
たしかに楓とは昔付き合っていたし、今も連絡を取り合っているようだが、二股なんて、信じられない。
芹花が割り切れない思いで唇をかみしめていると、甲田はタブレットを芹花から取り上げた。

「竜崎楓、こんなに綺麗なんだもん、男だったら家に連れ込んであれやこれやしたくなるわよね。これだけのイケメンだし、女性との付き合いには慣れてるだろうし。本当、むかつく男ね」