極上御曹司に求愛されています


「ううん。木島悠生って言えば、わかる?」
 
ピアノ漬けの日々を送る杏実が悠生のこと知っているとは思わなかったが、その予想に反して、杏実は「えー、あのイケメン御曹司?」と大声で叫んだ。

「イケメンには違いないけど……」
 
芹花は杏実の勢いに気圧されそうになる。

「お姉ちゃん、どこで知り合ったのよ。やっぱり都会に出ると出会う人のレベルも違うんだねえ。そういえば、この間の新聞にも出てたよね。お姉ちゃんの事務所のダントツ男前の弁護士さんと並んで」
「うん。それって慧太先生のことね。えっと、そうなの、あの新聞に一緒に載ってたのが悠生さんなんだけど」
 
悠生のことを知っているようだとわかった芹花は、ここからが本題だとばかりに表情を引き締めた。

「あのね、悠生さんと私が一緒に写ってる写真が週刊誌に出るの。だから明日、うちの事務所と出版社のHPに私の顔写真とプロフィールがアップされることになって。だから……。ごめんね、そっちに迷惑がかかるかもしれなくて。本当にごめん」
 
芹花はそう言って、スマホ越しに頭を下げた。
単にプロフィールを公表するだけならまだしも、悠生との記事が出てしまうのだ、これからマスコミがどう動くのか、予想もつかない。
家族や地元に迷惑がかからなければいいと、願う。

「で、その御曹司にはいつ会わせてもらえるの?」
「は?」
 
頭を下げる芹花の気持ちなど構わず、杏実は期待に満ちた声で問いかける。

「杏実? もしかして、会いたいの?」
「もちろん。あんなイケメン、こっちにはいないよ。でも、お姉ちゃんを選ぶなんて見る目があるよね」
 
杏実の弾んだ声に、芹花は耳を疑った。
悠生とのことが記事になれば、もしかしたら家族も面倒な思いをするかもしれないというのに、それに気づいていないのだろうかと不安になる。

「あのね、杏実、お姉ちゃんの記事が出たらマスコミがそっちに行くかもしれないし、迷惑をかけるかもしれないんだけど」
 
言い聞かせるように芹花は説明した。