極上御曹司に求愛されています


『お姉ちゃんに申し訳なかったって思うのは母さんだけじゃないよ。私も。ピアノの個人レッスンの費用は、お姉ちゃんの仕送りで賄ってたもん。そのおかげで音大にも合格できたし、感謝してる。お姉ちゃん、長い間ありがとう』
「え、いいよいいよ。大した額じゃなくて申し訳ないくらいだし」
 
突然感謝の言葉を聞かされ、芹花は慌てた。
それに、お見合い用の服だなんて初耳だ。
たしかに杏実にばかり洋服を作っていた母親を見て寂しい思いをしていたが、仕方がないと諦めていた。それを今頃……。
見合いするつもりはまったくないが、母親が芹花のために作ったというワンピースを着てみたいと思った。

『それにしても、美大を卒業したらこっちに帰ってくるって思ってたのに帰ってこないから、母さんがっかりしてたもん。今回のお見合いだって、いくつかきた話の中から厳選した人なんだよ。とにかくこっちに帰ってきて欲しいから、強引に決めちゃって、お姉ちゃんも迷惑だよね』
「迷惑……というか。私、お見合いするつもりはなくて」
 
それに、今は悠生という存在がいるのだ、もう、地元に戻ることはできない。
芹花はこうして電話をかけた理由を思い出し、気持ちを整えた。

「母さんが作ってくれた服は気になるけど、お見合いは、ちゃんと断るよ。わたし、恋人ができたんだ。で、今日はそのことで電話したの」
『え、本当? どんな人なの? 職場の人?』
 
芹花の言葉に、杏実は大きく反応した。

「職場の人じゃなくて。もしかしたら、杏実もその人の顔とか知ってるかもしれない」
『ん? 誰? こっちに住んでる人?』