極上御曹司に求愛されています


その後、三井はイラスト集を発売する出版社に連絡を入れた。
芹花と木島悠生が一緒に写っている写真が週刊誌に載ると聞いて担当者は言葉を失っていたが、すぐに販売部と連絡を取り、記事が出る前に芹花のプロフィールを公表しようということになった。
もともと数日後には好評する予定だったこともあり、芹花に動揺はなかった。
けれど、明日出版社と三井法律事務所のHPで芹花のプロフィールや経歴を発表すると決まり、家族に伝えておかなければならないと気づき、芹花は焦った。
以前、イラスト集の発売のことを伝えた時には、事務所の広報誌にイラストを描く程度のものだろうと考えた母親の反応は薄かった。

『出来上がったら一部送ってね』
 
芹花の母はそう言っただけで、特に興味を示すことはなかった。
ちょうど杏実のコンクールが近く、そのことしか考えられない時期だったとはいえ、ようやく両親に認められるかもしれないと期待していた芹花が気落ちしたのは言うまでもない。
そして今回の件だ。
芹花のことが世間に公表されることを両親がどう思うのか、まるで見当がつかない。
芹花は自宅に帰ってすぐ、憂鬱な気持ちで電話をかけた。

「もしもし。杏実? 父さんと母さんに話があるんだけど今大丈夫そうかな?」
 
実家の電話に出たのは杏実だった。

『お姉ちゃん、久しぶりだね、元気にしてるの? あ、父さんと母さんはご近所さんたちと最近できたカラオケに行ってるんだけど』
 
電話に出たのは杏実だった。
受験に備えてレッスンが続く杏実を気遣い、芹花から連絡をとることは控えていた。
こうして話すのは一ヵ月ぶりくらいだ。

「忙しいけど元気にやってるよ。あ、杏実、音大に合格したんだってね。おめでとう。母さんが大喜びしてたよ」
『ありがとう。無理だと思ってたけど、奇跡的に合格できたんだ』
「ううん。奇跡じゃないよ。杏実が限界まで努力したから合格できたんだと思うよ。起きてる間中練習してたんでしょう? その努力が実ってよかったね」
 
杏実はピアノを始めて以来、取りつかれたようにピアノを弾いている。
寝食を忘れてピアノに集中する姿は狂気じみていると感じることもあったほどだ。

『特待生から落っこちないように頑張らないといけないのがプレッシャーだけどね。あ、お姉ちゃんのイラスト集の発売ももうすぐだね。とっくにネットで予約も済ませてるし、楽しみなんだよね』
「え、イラスト集のこと、知ってるの?」