「天羽、大丈夫か? この記事が本当かどうかまだわからないから気にするなよ」
「うん……」
「竜崎楓がスーツケースを転がしてるところを見ると、記事に書かれてるように空港から直接来たんだろうな。だけど、ここが木島悠生が住むマンションかどうか、この写真じゃわからないぞ」
 
落ちこむ芹花を励ますように橋口は言葉を続けるが、芹花はぶんぶんと首を横に振った。

「ここは悠生さんのマンションに間違いない。望遠で撮ってるみたいだけど、この玄関には見覚えがあるから」
 
ようやく視線を上げた芹花は、橋口にスマホを返しながら力なくそう言った。

「だ、だけどな、前に二人の噂があったけど、それだってマスコミが騒ぎ立てただけで何もなかっただろうし、気にすることないぞ」
「ありがと。でも、昔、竜崎さんと付き合ってたって本人から聞いてるから間違いないの」
「そ、そうなのか。いや、マスコミのことだからデタラメを書いていたのかと思ったんだけど、まあ、美男美女だし、付き合っていてもおかしくないか……あ、違う。そうじゃないぞ。昔は付き合ってたかもしれないが、今は二人とも連絡すら取ってないと思うぞ。この写真はたまたまだ、そう、たまたま撮られただけだ」
 
橋口はどんよりとした様子の芹花を励まそうと言葉を続けるが、空回りばかりだ。
この間楓がフランスに行く前に悠生と電話で話していたと橋口に言えば、また焦って何を言い出すかわからない。
そう思って、芹花はくすりと笑った。

「大丈夫……というわけじゃないけど、悠生さんが一流企業の御曹司でこうしてマスコミに狙われてるってことがよくわかった。おまけに噂の相手は竜崎さんだもん、さすがにびっくりした」
「だよな。俺もびっくりした。だけど、木島悠生には会ったことないけどさ、天羽にかなり惚れてるような気がしてたんだけどな」
 
記事に納得がいかないのか、スマホを睨みながら橋口がぶつぶつと言っている。
芹花は、今日はもう、これ以上仕事にならないと思い、手早く書類を片づけた。