悠生が以前楓とつき合っていたと知れば、羨ましがるだろうと思った途端、胸が痛んだ。
アマザンで顔を合わせた時の二人を思い出す。美男美女の二人が並べば圧巻だった。
「どうした、妙な顔をして」
黙り込む芹花の顔を橋口が覗き込んだ。
「妙な顔って……なんでもない」
「そうか? ならいいけど、お、出てる出てる。竜崎楓の記事があがってるぞ」
ムッとする芹花に構わず、いつの間にかスマホを操作していた橋口は、弾んだ声を上げた。
「竜崎楓、三日前にフランスから帰国したみたいだぞ。足が長いからジーンズがよく似合ってる……は? 熱愛?」
橋口の大きな声に、芹花は思わず後ずさった。
「熱愛?」
「ああ。ネットニュースのトップに載ってるけど……。えっと、彼女がフランスから帰国してすぐに向かったのは、財閥系企業グループの御曹司?」
興奮気味に橋口が読み上げるネットニュースに、芹花は嫌な予感がした。
「財閥系企業の御曹司……」
まさか、と思いながら芹花がそう呟いたと同時に、橋口の声が再び響いた。
「世界的スーパーモデルの竜崎楓が空港から真っ先に向かったのは、独身女性たちからの注目が高い御曹司、木島悠生が住むマンションだった。三年前にも噂になった二人だが、ここにきて結婚か?って書いてあるけど……?」
どういうことだと視線を向ける橋口の手からスマホを掴み取った芹花は、画面を食い入るように見た。
片手にダウンコートを持ち、ハイヒールで颯爽と歩く楓はすっぴんのようだがとても美しい。おまけに長い脚にはジーンズがよく似合い、写真越しでもそのスタイルの良さがわかる。
無言でスマホを見つめる芹花を、橋口が気遣うようにちらちらと見る。
つい最近、芹花と悠生がつき合っていると聞いたばかりだ。
今はもうすっかり消えてしまったが、芹花の胸元や襟足に残されたキスマークは木島悠生が付けたものだった。
よっぽど芹花を大切にしているのか、明らかに他の男性を芹花に近づけないよう、牽制しているのだと橋口は思っていた。
それなのに、この記事はいったいどういうことだと不思議に思う。
芹花を見れば、唇をきゅっと結びスマホを見つめたまま微動だにしない。
橋口はそんな芹花の様子に慌てた。

